日めくり一週間

2021年10月27日

第1760回

立正安国と政治

 

<「立正(人間革命)」即「安国(平和と幸福)」>

 

 「立正」とは「正を立てる」、すなわち仏法の「生命の尊厳」と「慈悲」という人道の哲理の流布であり、仏法者の宗教的使命といってよい。また、個人に即していえば、自らの慈悲の生命を開拓し、人道を規範として確立していく人間自身の革命を意味している。

 創造の主体である人間の生命が変革されるならば、その波動は社会に広がり、人間を取り巻くあらゆる環境に及んでいく。そして、政治に限らず、教育、文化、経済も、人類の幸福と平和のためのものとなり、「安国」すなわち「国を安んずる」ことができよう。

 それは、ちょうど、一本の大河の流れが、大地を潤し、沃野と化した大地に、草木が豊かに繁茂していくことに似ている。仏法は大河、人間は大地であり、草木が平和、文化にあたる。

 日蓮仏法の本義は、「立正安国」にある。大聖人は民衆の苦悩をわが苦とされ、幸福と平和の実現のために、正法の旗を掲げ、広宣流布に立たれた。つまり、眼前に展開される現実の不幸をなくすことが、大聖人の目的であられた。それは、「立正」という宗教的使命は、「安国」という人間的・社会的使命の成就をもって完結することを示していた。そこに仏法者と、政治を含む、教育、文化、経済など、現実社会の営みとの避け難い接点がある。

 しかし、それは、政治の場に、直接、宗教をもち込んだり、政治権力に宗教がくみすることでは決してない。宗教は、人間を鍛え、人格を磨き高め、社会建設の使命に目覚めた人材を育み、輩出する土壌である。

 ゆえに学会は、全国民のために政治を任せるに足る人格高潔な人材を推薦し、政界に送り出すことはしたが、学会として、直接、政策などに関与することはなかった。

 新安保条約をめぐって、学会が推薦した参議院議員が、伸一に政策の決定について相談をもちかけると、彼は、きっぱりと言った。

 「それは、あなたたちが悩み、考え、国民のために決めるべき問題です。私の思いは、ただ全民衆のため、平和のために、戦ってほしいということだけです

 伸一の願いは、どこまでも民衆の幸福と平和にあった。そのために、社会の各分野に、どこまでも民衆のために戦う力ある人材を育て、送り出すことに、心を砕いていたのである。

 

<新・人間革命> 第2巻 先駆 41頁~43頁

2021年10月27日

第1759回

災害救助

1960年5月24日未明チリ地震大津波

(チリ地震5月23日日本時間午前4時過ぎ)

 

<一旦緩急の責任と行動>

 

 また、伸一は、会長就任の日から、全同志に題目を送ろうと、常に唱題しながらの指導行を続けていた。

 そのさなかの五月二十四日未明、大津波が、東北、北海道などの太平洋岸を襲った。津波の高さは、最高四、五メートルに達した。

 これは、南米のチリで、前日の二十三日午前四時過ぎ(日本時間)に起きた地震によるもので、それが太平洋を越えて、一昼夜をかけ、日本の岸辺を襲ったのである。死者は全国で百三十九人、被害家屋は四万六千戸余りとなり、特に被害が大きかったのは三陸、北海道南岸であった。

 伸一は、早朝、目覚めると、すぐにラジオのスイッチを入れた。前日、チリで大規模な地震があったことをニュースで知った彼は、現地の被害を憂慮するとともに、それに伴う津波を懸念していたのである。深夜にも、何度か目を覚まし、ラジオのスイッチを入れたが、午前三時の段階では、津波警報は出されていなかった。

 しかし、この時は、臨時ニュースとして、岩手の釜石市などで、津波が発生したことを告げていた。

 伸一は、急いで本部に向かった。彼が着いた時は、本部はまだ閑散としていた。職員もほとんど出勤していなかった。

 しばらくすると、副理事長の十条潔がやって来た。一旦緩急の際に、どう反応するかに、その人の責任感が表れるといってよい。さすがに午前八時過ぎには、大半の職員が顔を揃えた。

 伸一は、ワイシャツの腕をまくり、

 

 次々と被災地に見舞いと激励の電報を打っていった。

 さらに、被災地の各支部に被災状況の調査を依頼する一方、

 最も被害の大きい地域に、直ちに幹部を派遣することを決めた。

 あわせて、災害対策本部を設け、救援活動を行うように指示し、

 津波の被害のなかった地域に、救援を呼びかけた。

 

 迅速にして、的確な手の打ち方であった。

 山本伸一は、同志がどんな状況にあるかと思うと、食事もほとんど喉を通らなかった。

 打つべき手を打つと、

 彼は、広間の御本尊の前に座り、人びとの無事を祈った。

 間もなく被災地から、続々と報告がもたらされた。

 市の中心部まで津波が及んだ宮城県塩釜市からは、興奮した声で、こう伝えてきた。

 「幸いにして学会員は全員無事です。みんな『守られた。功徳だ』と言っています。そして、先生の激励の電報に、同志は元気いっぱい頑張っています。

 また、船が、津波のために陸の上に押し上げられているような状態です」

 岩手県宮古市からは、簡潔にして、力強い報告の電報が寄せられた。

 「功徳顕著。御本尊の流失なし。浸水四、床下浸水七。今夜御授戒、前進の意気高し」

 幸いなことに、どの地域でも、会員の被害は極めて少なかった。

 

 被災地には、全国の同志から続々と救援物資が届けられた。

 また、現地で指揮をとる幹部たちも、学会員であるなしに関係なく全力で人びとに激励と援助の手を差し伸べた

 この学会の迅速な救援は、全被災者にとって、大きな復旧の力となったのである。

 

 しかし、この時、政府の対応は極めて遅かった。

 それは、衆議院で自民党が新安保条約を強行単独可決したことから、社会党が国会審議を拒否し、国会が空白状態にあったからである。

 とりあえず内閣に津波災害対策本部を設置することが決まったのは、津波から三十数時間が経過した二十五日の昼であった。

 だが、国会がその機能を果たしていないために、抜本的な対策は何一つなされなかった。被災地の人びとにしてみれば、迷惑このうえない話である。二十七日には、岩手県の副知事らが上京。この津波災害に対して、特別立法による国庫補助の要請も出された。

 津波自体は自然災害であるが、適切な措置を講ずることができず、人びとが苦しむのは、人災以外の何ものでもない。

 政治家の第一義は、国民を守ることにある。災害に苦しむ人びとの救援こそ、最優先されねばならない。

 伸一は、被災者の苦悩を思うと胸が痛んだ。そして安保をめぐる党利党略に固執し、民衆という原点を見失った政治に、怒りを覚えるのであった。伸一は「立正安国」の実現の必要性を、痛感せざるをえなかった。

 

<新・人間革命> 第2巻 先駆 38頁~41頁 

2021年10月26日

第1758回

 

  仏法は道理! 仏法は勝負!

 

 壮年部の模範の先達といえば、信越にゆかりの深い四条金吾である。

 四条金吾が、

  立派な仕事ぶりゆえに同僚から妬まれ、

  正しき信心ゆえに弾圧され、

  悪辣な讒言を加えられ、

  窮地に立たされたことは、

 ご存じの通りである。

 その金吾を、大聖人は徹底して厳護していかれた。

 金吾に贈られた御書の指導について、あえて要点を挙げれば、次のようになろうか。

 まず「難を乗り越える信心」である。

 そして「変毒為薬」――「毒を変じて薬と為す」妙法の偉大な力を教えられた。

 また、「名聞名利、毀誉褒貶などの八風に侵されない賢人たれ」(八風とは「利・衰・毀・誉・称・譏・苦・楽」)

 「仏法は人の振る舞いにある」と強調された。

 具体的に、

 “短気を起こすな

 “油断するな

 “事故に注意せよ

 “事前の用心を怠るな

 “酒に気をつけよ

 “同志を大切にせよ

 “味方をつくれ

 “女性は決して叱るな

 “人を尊重せよ”等々、

 細々と「人間学の真髄」を教えていかれた。

 「仏法は道理なり」とも仰せである。

 仏法は、いかなる権力や横暴にも必ず勝つ最高の道理であり、最高の正義である。

 さらに大聖人は「同志の団結」を訴えられた。

 大変なときこそ、よき同志から離れず、和合の組織とともに進むことだ。それが魔に付け入る隙を与えないことになる。学会こそ「生命の安全地帯」である。

 また「信心に生き抜く以上の遊楽はない」のである。

 大聖人は四条金吾に「法華経に勝る兵法なし」と厳然と示された。

 「心こそ大切なれ」(御書1192㌻)、

 「臆病にては叶うべからず」(御書1193㌻)と強く語られた。

 勇気ある信心で戦っていくことだ。

 そして、何よりも「仏法は勝負なり」である。

 師子のごとく正義を語り、堂々と生き抜く。

 正しき仏法を断じて持ち抜く。その人間が最後は勝つ。

 それを燦然と示しきっていく生き方を、大聖人は教えられたのである。

 また、四条金吾の夫人に対しても、勇気ある信心を貫いていきなさいと大聖人は指導しておられる。

 金吾への御手紙に“夫人の祈りが叶わないというのは、決して法華経のせいではない。信心が弱いからである。『自分(金吾)は人に憎まれながらも、信心を持っている。そのように実践していこう』と夫人に話してあげなさい”(御書1138㌻、趣意)と記しておられる。

 事業にも、人生にも、山があり、谷がある。

 遠くは、釈尊門下の随一の大富豪であった須達長者夫妻も、決して順風満帆の人生航路ではなかった。7度、貧窮し、そして7度、長者になるという「波瀾万丈の人生」であった。

 とくに、7度目の貧窮の際は、万民が皆、逃げ去り、ただ夫妻二人だけ残された。そのどん底の中でも、師と仰ぐ釈尊に大誠実を尽くし、そして大法に殉じていこうとした。

 最も苦しいときの、最も強く、最も深き信心の志によって、夫妻は一転して、インド第一の長者になった。やがて、あの有名な祇園精舎を造る大境涯になったというのである。

 まさに「一念三千」であり、「一心の妙用」である。信心の「心」こそ大切なのである。

 大聖人は、「この須達長者を鑑として、万事を心得ていきなさい」(御書1574㌻、趣意)と仰せである。

 私は、わが学会員が、一人も残らず、いかなる苦境をも打開し、福運に満ち満ちた人生を歩んでいかれるよう、強く、また強く、深く、また深く、題目を送り続けていく決心である。

 創価学会のことを馬鹿にし、学会員をいじめた者は、因果の理法に照らし、必ず哀れな末路をたどる。これは、多くの方々が、まのあたりにして、ご存じの通りである。

 仏罰は厳しい。「めは事なきやうにて終にほろびざるは候はず」である。

 

2002.7.26全国総県長会議 池田大作全集第67巻373頁

2021年10月26日

第1757回

壮年部よ仕事第一で

 

 8・24「壮年部の日」を前に、全国、全世界の壮年部のご活躍を、私は、心から讃え、ねぎらいたい。

 不況は依然、深刻である。世界的にも、株価が低迷している。こうした時代状況のなかだからこそ、壮年部の皆さま方は、信心を根本に、あくまでも「仕事優先」「仕事第一」で前進していただきたい

 活動になかなか出られない場合も、当然ある。自営の方々のご苦労も、並大抵ではない。

 周囲の同志は、そうした壮年部の状況を、よく理解してさしあげることが大事である。

 その人が大変なときこそ、皆で祈り、皆で励まし、皆で包容し、守り合い、支え合っていく――これが、創価学会の人間共和の世界だからである。

 戸田先生は、よく「信心は一人前でよい。仕事は三人前、働きなさい」と言われた。

 大聖人は、社会で戦う壮年の弟子を、こう激励しておられる。

 「あなた方のことは、日蓮から(諸天に、守護をお願いし)申しつけておきましょう。そのままでおられること(今のまま主君に仕えること)こそが、法華経を昼夜にわたり実践されていることになるのです。ともかく主君に仕えることが法華経の修行であるとお思いなさい。『一切の社会の営みや日常の生活は、すべて実相(=妙法)と相反することはない』と経文に説かれているのは、このことです」(御書1295㌻、通解)

 当時、大聖人は、御自身に3度目の流罪の可能性もあった。しかし、そのなかで、御本仏は、悠然と、また厳然と、苦境と闘う門下を守り抜いておられたのである。

 

2002.7.26全国総県長会議 池田大作全集第67巻371頁

2021年10月25日

第1756回

仕事は真剣勝負

祈りは誓願

逆境は仏法証明のチャンス

 

<仏法は最高の道理>

 

 伸一は、ここでは、多くの時間を質問会に当てた。農業移住者としてブラジルに渡り、柱と頼む幹部も、相談相手もなく、必死で活路を見いだそうとしている友に、適切な指導と励ましの手を差し伸べたかったのである。

 「どうぞ、自由に、なんでも聞いてください。私はそのために来たんです」

 彼が言うと、即座に四、五人の手があがった。皆、こうした機会を待ち望んでいたのである。質問の多くは、生き抜くための切実な問題だった。

 四十過ぎの一人の壮年が、兵士のような口調で、緊張して語り始めた。 「自分の仕事は農業であります!」

 「どうぞ気楽に。ここは、軍隊ではありませんから。みんな同志であり、家族なんですから、自宅でくつろいでいるような気持ちでいいんです」

 笑いが弾けた。日焼けした壮年の顔にも、屈託のない笑みが浮かんだ。

 この壮年の質問は、新たに始めた野菜づくりに失敗し、借金が膨らんでしまったが、どうすれば打開できるかというものだった。

 伸一は聞いた。

 「不作になってしまった原因はなんですか」

 「気候のせいであったように思いますが……」

 「同じ野菜を栽培して、成功した方はいますか」

 「ええ、います。でも、たいていの人が不作です」

 「肥料に問題はありませんか」

 「……詳しくはわかりません」

 「手入れの仕方には、問題はありませんか」

 「…………」 「土壌と品種との関係はどうですか」

 「さあ……」

 壮年は、伸一の問いに、ほとんど満足に答えることができなかった。

 〝この人は自分なりに、一生懸命に働いてきたにちがいない。しかし、誰もが一生懸命なのだ。それだけで良しとしているところに、「甘さ」があることに気づいていない〟

 伸一は、力強く語り始めた。

 「まず、同じ失敗を繰り返さないためには、なぜ、不作に終わってしまったのか、原因を徹底して究明していくことです。成功した人の話を聞き、参考にするのもよいでしょう。そして、失敗しないための十分な対策を立てることです。真剣勝負の人には、常に研究と工夫がある。それを怠れば成功はない。信心をしていれば、自分の畑だけが、自然に豊作になるなどと思ったら大間違いです。仏法というのは、最高の道理なんです。ゆえに、信心の強盛さは、人一倍、研究し、工夫し、努力する姿となって表れなければなりません。そして、その挑戦のエネルギーを湧き出させる源泉が真剣な唱題です。それも〝誓願〟の唱題でなければならない」

「セイガンですか……」 壮年が尋ねた。皆、初めて耳にする言葉であった。

 伸一が答えた。

 「〝誓願〟というのは、自ら誓いを立てて、願っていくことです。祈りといっても、自らの努力を怠り、ただ、棚からボタモチが落ちてくることを願うような祈りもあります。それで良しとする宗教なら、人間をだめにしてしまう宗教です日蓮仏法の祈りは、本来、〝誓願〟の唱題なんです。その〝誓願〟の根本は広宣流布です。

 つまり、〝私は、このブラジルの広宣流布をしてまいります。そのために、仕事でも必ず見事な実証を示してまいります。どうか、最大の力を発揮できるようにしてください〟という決意の唱題です。これが私たちの本来の祈りです

 そのうえで、日々、自分のなすべき具体的な目標を明確に定めて、一つ一つの成就を祈り、挑戦していくことです。その真剣な一念から、智慧が湧き、創意工夫が生まれ、そこに成功があるんです。つまり、『決意』と『祈り』、そして『努力』と『工夫』が揃ってこそ、人生の勝利があります。一攫千金を夢見て、一山当てようとしたり、うまい儲け話を期待するのは間違いです。それは、信心ではありません。それでは観念です。 仕事は生活を支える基盤です。その仕事で勝利の実証を示さなければ、信心即生活の原理を立証することはできないどうか、安易な姿勢はいっさい排して、もう一度、新しい決意で、全力を傾けて仕事に取り組んでください」

 「はい。頑張ります」

 壮年の目には、決意がみなぎっていた。

 伸一は、農業移住者の置かれた厳しい立場をよく知っていた。そのなかで成功を収めるためには、何よりも自己の安易さと戦わなくてはならない。敵はわが内にある。逆境であればあるほど、人生の勝負の時と決めて、挑戦し抜いていくことである。そこに御本尊の功力が現れるのだ。ゆえに逆境はまた、仏法の力の証明のチャンスといえる。

 

<新・人間革命> 第1巻 開拓者 292頁~296頁

021年10月24日

第1755回

 師弟の勝利の大叙事詩を

 

 師弟不二――

 真実の戦いは、

 ここにしかない。

 ここにしか、仏法はない。

 深き人間の道もない。

 師匠に応えんとする、

 その一念、その祈りから、

 勝利の力が生まれるのだ。

 

 師匠に心を合わせる。

 師弟の熱き魂を

 叫び抜いていく。

 そうすれば、

 もっともっと

 力を発揮できる。

 変わっていける。

 全て「心」で決まるのだ。

 師匠に対して、

 「きょうも、

 新しい勝利の道を

 開きました!」と

 毎日、報告するような

 気持ちで戦うことだ。

 

 師匠は大地であり、

 弟子は草木である。

 報恩の弟子の勝利は、

 稲の命が

 大地に還るがごとく、

 師匠の栄光となり、

 福徳となる。

 そして、

 その師弟の大地から、

 新たな勝利の花が

 永遠に咲き誇る。

 

 「決意」は即

 「行動」である。

 立つべき時に立つ!

 時を逃さずに戦う!

 電光石火の共戦こそ、

 創価の師弟の心であり、

 楽土を築きゆく

 地涌の闘争なることを

 忘れまい。

 

 三世永遠の

 「師弟の絆」で結ばれた

 わが同志よ、

 今こそ前進だ!

 対話だ! 励ましだ!

 快活に動こう!

 この世の誓いを、

 尊き地涌の使命を

 果たし抜くために!

 

 君よ、

 君でなければ

 創ることのできぬ、

 偉大な使命の物語を創れ!

 そして、共々に、

 師弟の勝利の大叙事詩を

 生き抜いて

 いこうではないか!

 

2021年10月24日〈池田大作先生 四季の励まし〉

2021年10月24日

第1754回

幸せはどこに?

 

 一行は、午後には郊外を回った。辺りには、のどかな田園風景が広がっていた。

 「この辺の農家の人たちの暮らしについて、いろいろ聞いてみたいね」

 伸一は、ポツリと言った。 一軒の農家の前を通りかかると、そこに一人の若い婦人が立っていた。その家の主婦のようだ。正木永安が車を止めた。伸一は車を降りると、笑顔で婦人にあいさつした。

 「ハロー」

 その後を受けるように、正木が英語で話しかけた。

 「こんにちは。シカゴの農家の暮らしについて、ちょっとお聞きしたいのですが……。こちらは、日本から来た創価学会の会長の山本伸一先生です。創価学会は世界の平和と人びとの幸福を実現しようとしている仏法の団体です」

 正木は、こう言って伸一を紹介した。彼女は、快く正木の質問に答えて、シカゴの農家の生活や作物、また、家の歴史まで語ってくれた。一家は、ドイツから移住してきたという。

 その話し声を聞いて、家のなかから、老婦人が外に出て来た。年齢は七十歳ぐらいであろうか。

 「ウチのおばあちゃんです。きょうは、おばあちゃんの誕生日なんですよ」

 若い婦人が伝えた。それを聞くと、伸一は、老婦人の手を取って言った。

 「そうですか。おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。どうか、いつまでも、いついつまでも長生きしてください。おばあちゃんが、元気でいることほど、ご家族の皆さ

んにとって嬉しいことはありません。それは一家の幸せにつながります。また、ご家族は、おばあちゃんを誰よりも大切にしてください。その心が家族の愛情を強くし、一家が末永く繁栄していく源泉になります。幸せは、決して遠くにあるのではなく、家庭のなかにあります」

 正木が伸一の話を伝えた。老婦人は見知らぬ日本人の祝福に、嬉しそうに笑みを浮かべた。伸一は、微笑む老婦人を見て言った。

 「それじゃあ、みんなでおばあちゃんの誕生日を祝って、バースデーソングを歌おう」

 

 〽ハッピー・バースデー・トゥー・ユー……

 

<新・人間革命> 第1巻 錦秋 191頁~193頁

2021年10月23日

第1753回

命限り有り

 

 その帰りに、一行はシアトルの名所のワシントン湖に立ち寄った。この湖は、運河で海とつながり、湖と海には落差があるため、水位を調整する水門がつくられていた。その水門が閉じられ、船が運河を行く様子を眺めていると、しとしとと雨が降り始めた。

 湖には、浮橋が架けられていた。一行は、この浮橋に立ってみた。湖面の彼方に、山々が雨で淡く霞み、黄や赤に染まった森の木々が水彩画のように見えた。

 「本当にきれい! まるで絵のようね……。でも、この美しい葉も、すぐに散ってしまうと思うと、無常を感じるわね」

 しんみりした口調で、清原かつが言った。伸一はそれに笑顔で応え、静かに語った。

 「鮮やかな紅葉は、木々の葉が、限りある命の時間のなかで、自分を精いっぱいに燃やして生きようとする姿なのかもしれないね……。

 すべては無常だ。人間も生老病死を避けることはできない。だからこそ、常住の法のもとに、一瞬一瞬を、色鮮やかに燃焼させながら、自らの使命に生き抜く以外にない。人生は、限りある時間との戦いなんだ。それゆえに、日蓮大聖人も『命限り有り惜む可からず遂に願う可きは仏国也』(御書九五五㌻)と明確に仰せになっている。今の私にほしいのは、その使命を果たすための時間なんだ……」

 最後の言葉には、伸一の切実な思いが込められていた。しかし、その深い心を汲み取る人はいなかった。色づく錦秋の木々にも増して、伸一の心には、広宣流布への誓いが、鮮やかな紅の炎となって燃え盛っていた。

 

<新・人間革命> 第1巻 錦秋 163頁~164頁

2021年10月22日

第1752回

人種差別は

「人間革命」による以外に解決はない!

 

<他者支配のエゴイズムを

人類共存のヒューマニズムに転換>

 

 山本伸一は、あの少年への仕打ちを目にして、人種差別の問題に深く思いをめぐらしていった。

 ──理不尽な差別を撤廃するうえで、〝黒人〟の公民権の獲得は不可欠な課題である。しかし、それだけで、人びとは幸せを獲得できるのだろうか。答えは「ノー」といわざるをえない。なぜなら、その根本的な要因は、人間の心に根差した偏見や蔑視にこそあるからだ。この差別意識の鉄鎖からの解放がない限り、差別は形を変え、より陰湿な方法で繰り返されるにちがいない。

 人間は、人種、民族を超えて、本来、平等であるはずだ。その思想こそ〝独立宣言〟に表明されているアメリカの精神である。しかし、〝白人〟の〝黒人〟に対する優越意識と恐れが、それを許さないのだ。

 問題は、この人間の心をいかに変えてゆくかである。それには「皆仏子」「皆宝塔」と、万人の尊厳と平等を説く、日蓮大聖人の仏法の人間観を、一人ひとりの胸中に打ち立てることだ。そして、他者の支配を正当化するエゴイズムを、人類共存のヒューマニズムへと転じゆく生命の変革、すなわち、人間革命による以外に解決はない。

 伸一は、アメリカ社会の広宣流布の切実な意義を噛み締めていた。戸田城聖は生前、人類の共存をめざす自身の理念を「地球民族主義」と語っていたが、伸一は、その実現を胸深く誓いながら、心のなかで、あの少年に呼びかけていた。

 〝君が本当に愛し、誇りに思える社会を、きっとつくるからね〟

 

<新・人間革命> 第1巻 錦秋 178頁~179頁

世界広布新時代

創立100周年へ

希望・勝利の年

(2021年)

2013.11.18

祝広宣流布大誓堂落慶

更新日

2021.10.28

第1761回

第1762回

  

日天月天ワンショット

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