インタビュー他

2022年3月24日

〈危機の時代を生きる〉

 慶應義塾大学大学院

蟹江憲史 教授

 

SDGsは「未来のかたち」

コロナ後の社会の道しるべ

 

 国連のSDGs(持続可能な開発目標)策定に向けた、国際的な研究・政策提言をリードし、採択後も、啓発・推進活動の中心的役割を担ってきた慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授。危機の時代におけるSDGsの意義について、第一人者である同教授にインタビューしました。(聞き手=樹下智、澤田清美)

 

日本の達成度は?

 ――教授は著書『SDGs』の中で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)からの「再出発」に必要なのは、「SDGsの道しるべである」と述べています。

  

 パンデミックによって、仕事が続けられない、学校が休校になる、流通が滞るなど、社会のあらゆる側面が抑制され、ストップがかかりました。「持続可能」とは、簡単に言えば、「止まらないで続けられる」ということです。パンデミックでさまざまなことがストップしてしまったこと自体、現代社会が持続可能ではなかった一つの証左といえます。

  

 いわばSDGsとは、“止まらないで続けられるのはどういう状態か”という逆算から掲げられた目標の集まりです(17の目標と169のターゲット)。

  

 止めてしまうリスクがあるから、それを回避するための目標を設定する。例えば、気候変動や生物多様性の破壊など、そのまま放置しておくと、地球環境や国際社会が「続いていく」のが困難になる問題が山積しています。そうした問題に対処する際になすべきこと、達成すべき指標が書かれている、つまり「道しるべ」が記されているのがSDGsだといえます。

  

 パンデミックは、弱い立場に置かれた人がより大きな影響を受けるという、現代社会の脆弱性を改めて浮き彫りにしました。コロナ禍の先の世界に必要なのは、大きなダメージを受けた人を優先しながら経済の再生を図り、環境との共生も実現していく、持続可能な成長戦略です。SDGsは、そのためにやるべきことの“チェックリスト”であるともいえます。

  

 ――SDGsの中で、日本が特に取り組むべき目標は何でしょうか。

  

 ドイツのベルテルスマン財団と、世界的な研究機関のネットワークである「持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)」が発表している『持続可能な開発報告書』の中に、各国のSDGsの進捗状況を測る「SDGインデックスとダッシュボード」があります(SDSN会長はコロンビア大学のジェフリー・サックス教授で、蟹江教授が幹事としてSDSNジャパンを設立)。

  

 日本の達成度は79・85点で全体として18位(165カ国中)。特に課題が残るのが、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」や目標13「気候変動に具体的な対策を」などです。つまり日本が遅れているのは、社会と環境の持続可能性です。ジェンダー平等や格差の問題に取り組むことによって、他の課題解決にもつなげていけば、日本の評価は格段に上がるのではないでしょうか。

 

 

 ――教授は、ジェンダー平等を実現することが、教育の平等や人間らしい仕事の実現など、他の目標の実現につながると指摘しています。

  

 ジェンダー平等については、日本は非常に遅れていて、世界の中でも下位のレベルですよね。例えば、地域の審議会などでも男性が多い。会長が男性だったら、少なくとも副会長は女性にすべきだと言うと、初めて「確かにそうですね」となる。これが日本の現状だと感じます。

  

 ジェンダー平等は、他の問題解決にもつながる軸となる課題です。例えば、夫婦が平等に仕事と育児ができるように、テレワーク(在宅勤務)を導入すれば、目標8「働きがいも 経済成長も」の達成につながる。こうした積み重ねが、社会のあり方を変えていきます。ジェンダー平等が他の課題を横断的に解決していくように、一つの目標に取り組むことが他にも波及していく点が、SDGsの特長であると考えます。

  

 ――SDGsを掲げた国連決議「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の前文には、「我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」とあります。SDGsはなぜ、「誰も置き去りにしない」ことに力点を置いているのでしょうか。

  

 取り残される人がいてしまっては、その人にとって、今の世界は続かない方がいいことになります。自分が置き去りにされる世界が続いた方がいいと思う人はいないでしょうから、取り残される人がいる限り、決して持続可能とはいえない。ゆえに、持続可能な世界を実現するためには、誰も置き去りにされないことが重要な条件になる。

  

 シンプルかもしれませんが、そうした理念がSDGsの根底にあるように思います。

  

 SDGsにはそもそも、非常にシンプルなことしか書かれていません。誰もが「これは大事だ」と納得できる、小学生が学校で習うようなことばかりです。単純なだけに、それを実現できていない現実が、現代社会のいびつさを物語っています。

  

 実現できない理由の一つが、ここまで拡大した格差の問題です。一握りの大富豪が、全人類の大部分の富を所有している現状はどう考えてもおかしい。それと向き合って解決しなければならないという注意喚起が、「誰も置き去りにしない」というSDGsの基本理念に込められているのでしょう。

  

 SDGsとは要するに、経済・社会・環境を調和させた、「資源の再分配」への挑戦です。自由な資本主義が主流の現代社会にあって、193カ国もの国連の全加盟国がよく合意できたなと、今でも驚いています。目指すべき「未来の世界のかたち」を示したSDGsは、それだけで価値あるものですし、今の世界のあり方では、地球環境も国際社会も「止まらないで続けていく」のが困難になっている危機的状況の裏返しともいえます。

  

 ――教授は、SDGs達成のために、「型にはめるのではなく、『自分なり』の個性を生かした行動をとること」が重要だと提唱しています。普段の生活で実践していくためのアドバイスがあれば教えてください。

  

 他人に言われて行動するのではなく、「こういう方法があるんだ」と自分で発見していくことが大切ではないでしょうか。「他人ごと」から「自分ごと」にするためには、自分に関わること、自分が興味のあることから始めるのをお勧めします。

  

 私の場合は、家を建てる際に、環境に優しい「SDGハウス」にしようと決めたことで、17の目標がより具体的に、もっと身近に感じられるようになりました。持続可能な素材をあえて使うなど、コストをかければ環境を守ることはさまざまできますが、経済的なバランスを考えないといけない。自分の財布に関わることですから、SDGsが一気に「自分ごと」になりました。

  

 自身の住居にSDGsを取り入れるのは、当初は考えてもいませんでした。ですが友人からヒントを得て、何もせず出来上がった住まいに入居するという「当たり前」のことを、ちょっと立ち止まって考えることができました。「当たり前」を疑ってみる、というのが重要なポイントだと考えます。

  

 例えば、外出中に喉が渇いたら、ペットボトルに入った飲み物を買うのが普通ですが、一度立ち止まって、「あれ、これ捨てたら、どうなるのかな?」と、「当たり前」を疑ってみる。すると、やはりマイボトルを持ち歩く方が環境に優しいし、経済的でもあることに気付きます。そして、「ペットボトルは使わないようにしよう」と「自分ごと」にすることが、最初のステップです。

  

 今の若い人たちは、SNSを使って、自身の取り組みを広く発信することに長けていますから、自分の行動からさらに共感の輪を広げていくこともできます。この点では、学生たちに、逆に教えられることばかりです。

 

信仰との親和性

 ――現在の10代から20代の若者は、他の世代に比べて、SDGsに対する意識が高いといわれます。経団連が「企業行動憲章」を改定してSDGs達成への行動を呼び掛けるなど、社会全体の雰囲気が変わってきていることにも起因すると考えられますが、若者たちの意識の高さの理由はどこにあるとお考えですか。

  

 学生たちと関わる中で実感するのは、彼ら、彼女らが育ってきた時代と環境が影響しているのではないかということです。

  

 例えば21歳の人は、生まれた直後に9・11米同時多発テロ事件があって、世界が「テロとの戦い」の時代に入り、その後に、リーマンショックによる金融危機で、経済が低迷する。そのわずか3年後には、東日本大震災で大勢の尊い命が犠牲になり、原子力発電所の事故が起こりました。やはりこの頃から、“社会のためになることが、自分にとっても大事”という考え方が広がってきたように感じます。

  

 そして、ここにきてコロナ禍です。今はウクライナでの戦火も目の当たりにしています。こうした目まぐるしい社会の変化の中で育った若者たちにとって、もはや“平常時”は存在しないといえます。“平常時”がないからこそ、「社会のために」という感覚がないと、「自分がやりたいこと」もできない。こうした若者の意識が、SDGsへの関心の高まりにつながっているのではないでしょうか。

  

 ――池田SGI会長は、SGIが国連経済社会理事会の協議資格を持つNGO(非政府組織)となった1983年から毎年、平和提言を発表し、今年で40回目を数えるに至りました。本年の提言では、SDGsの“誰も置き去りにしない”との理念に、「皆で“生きる喜び”を分かち合える社会」の建設というビジョンを重ね合わせ、肉付けする重要性を訴えました。SDGs達成に向け、FBO(信仰を基盤とする団体)の役割をどうお考えですか。

  

 日本ではあまり語られていませんが、世界では「持続可能性」と「信仰」には親和性があると捉えられています。持続可能な社会を目指して行動を起こしていくには、それを「自分ごと」にしていくことが肝要であり、その一番の原動力になるのが信仰だと考えられているからです。

  

 「誰一人取り残されない」という理念を肉付けするためにも、今後、信仰が果たす役割がもっと注目されてもいいのではないかと考えます。

  

 価値観の変革が、今ほど求められている時はありません。SDGsが策定される際に、さまざまな議論がなされる中で、今までは大量生産・大量消費がよしとされた「量の時代」だったけれども、これからは「質の時代」にしていかなければならないと、よくいわれていました。何が本当に価値あることなのかを熟考し、「質」を重視する思考と行動への転換が必要とされています。FBOに寄せられている期待は、大きいのではないでしょうか。

 かにえ・のりちか 1969年、東京都生まれ。専門は国際関係論、サステナビリティ学。慶應義塾大学を卒業後、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。東京工業大学大学院准教授、パリ政治学院客員教授等を経て、現職。慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ代表を務める。国連持続可能な開発会議(リオ+20)日本政府代表団顧問、日本政府SDGs推進本部円卓会議委員など、SDGs関連を中心に政府委員を多数歴任してきた

 

2022年3月24日聖教新聞TOP

著書『SDGs』(左から2冊目)をはじめ、蟹江教授には多数の著書・編著がある。『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(同3冊目)など、多くのSDGs関連の書籍を監修している

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