2021年12月9日
第1820回
二十世紀は大量殺戮の世紀
<人間を手段とせず、目的とせよ!>
それから、十四年の歳月が流れようとしていた。
山本伸一の一行は、ラングーン市内の日本人墓地で、「大東亜戦争陣没英霊之碑」に向かい、日達法主の導師で読経・唱題した。
伸一は、長兄をはじめ、ビルマ戦線で死んでいった人びとの冥福を願い、真剣に祈りを捧げた。
唱題の声が、夕焼けの空に広がっていった。
伸一の唱題は、恒久平和への強い誓いとなっていた。
追善の唱題を終えると、彼は、心に長兄の顔を思い浮かべながら、日達に言った。
「ともに勤行していただき、ありがとうございました。兄をはじめ、ここで亡くなった戦没者の方々への最高の追善になったと思います」
伸一は、戦没者の碑の前に、しばらく佇んでいた。
彼は思った。
──戦争という愚行を、人類は決して犯してはならない。
しかし、振り返ってみれば、二十世紀は「戦争」と「革命」に明け暮れ、既に三分の二が過ぎようとしている。
そして、戦時中の日本に限らず、どの国も「民族」や「国民」のためと言いながら、結局は、権力が人間を利用し、手段としてきた。
伸一は「汝の人格ならびにあらゆる他人の人格における人間性を常に同時に目的として使用し、決して単に手段としてのみ使用しないように行為せよ」との、カントの言葉を思い起こした。
この〝人間を手段とせず、目的とせよ〟という原則は、国家権力にも例外なく適用されなければならないはずだ。ところが、国家対国家の戦いのもとで、その犠牲になるのは、いつも人間であり、無名の民衆ではなかったか。恐るべき本末転倒といってよい。
彼は二十世紀という時代が、大量殺戮に明け暮れてきたことを思うと、胸に、怒りと悲しみがあふれた。
<新・人間革命> 第3巻 平和の光 294頁~295頁